ポイント目的でウェブ広告を見ていると気になる言葉があった。「正露丸の会社」という言葉だ。痩身を目的としたサプリメントの広告に大きく「正露丸の会社」とうたっている。「正露丸」と言えば腹痛の際に飲む丸薬として有名だ。自分が物心ついたときからテレビCMで「正露丸」の名前を聞いていたから、少なくとも30年以上前からあると思っていたが、調べてみると1904年の日露戦争以前に日本陸軍によって開発された丸薬が「正露丸」。30年以上前どころではなく、100年は優に経(た)っている。
「正露丸」の名前の由来は、”そして、軍当局は、この丸薬が特殊な薬臭のため服用され難いことを考慮して、服用を奨励するため、これに戦争名にちなみ「征露丸」と命名したのが、その名称の起源である。” (『昭和35(行ナ)32商標権行政訴訟』から引用)という記述がある。日露戦争の際に服用を奨励した丸薬で「露西亜」を「征する」から「征露丸」。その後漢字が変わって「正露丸」となったそうな。
先述の引用元である訴状でわかる通り、「正露丸」という名称で裁判が起こっている。その裁判の中で「正露丸」は一般名詞と判断され、1つの会社が独占的に使える固有の商品名ではなくなっている。「風邪薬」や「胃腸薬」と並んで「正露丸」なのだ。
しかし、「正露丸」と聞くと何処(どこ)からともなくラッパの音が聞こえてきてラッパのマークが頭に浮かぶ。このラッパも旧陸軍で使われた食事時を知らせるラッパの旋律である。食事を伝達するラッパの音で腹痛を思い浮かべるのは少し矛盾を感じるが幼いころから刷り込まれてきた印象はしぶとい。どうしようもない。
そんな変わった歴史と経緯をもつ「正露丸」という一般名詞。「正露丸の会社」という言い回しに火の輪をジャンプでくぐるサーカスのライオン、素早い足さばきで障害物を避けるローラースケート、峠を華麗なドリフトで曲がりきる走り屋のように、ギリギリ優良誤認を避けるドキドキ感を感じる。実際にギリギリ避けきっていると思ったのだが、その会社のサイトを確認しても製品紹介に「正露丸」がない、一般販売向けではない製品で正露丸を作っているのだろうか……。何とも調べれば調べるほどドキドキする。