「えー夫婦生活を送る上で大切な袋が三つあります……給料袋、お袋、堪忍袋……」という定番の結婚式スピーチがあった。
しかし、1番目の給料袋はピンとこない。今まで会社員になって辞めて会社員になって辞めてを繰り返しているが、一度も「給料袋」をもらったことがない。もちろん給料は過分にもらっていたが、給料袋はもらったことがないのだ。
新卒で入ったシステム開発会社で一番最初に給料振込用に銀行口座を作った。会社で申込書が用意され記入。ミッキーマウスの通帳に初給料が振り込まれた記憶がある。22歳に作った口座だから20年以上も口座が存在しているが、その支店には一度も行ったことがない。都内の支店らしいので訪れることも出来るが行ってしまったら何かが崩れてしまいそうで、足を運ぶのに躊躇している。
その後、何度か転職したが、先々の会社の給料支払いは全て銀行振込。給料袋という物をもらった記憶が無いのだ。
20年以上給料袋未経験の自分が、先日近所の古本屋の文房具コーナーで見つけてしまった。オキナ株式会社開発封筒「角8月殿付給料定形郵便30枚」もちろん衝動買い、使い道は何も思いつかないが、初めての給料袋を手に入れた昂奮からか手にとって急いで280円+税28円で308円の支払いをした。帰り道、顔がニヤケてしまう。鞄の中には給料袋が入っているのだ。うふふ。
給料の支払いが手渡しから銀行振込になったのは昭和40年代(1965年-)前半ごろから以降が進んだらしい。
企業の合理化意識の高まり、給与所得者の意識の変化、銀行の積極的な推進などにより、ようやく給与振り込みが一般化し始めていた。
『横浜銀行六十年史』 横浜銀行企画部/編 横浜銀行 1980
また、昭和43年に東京都府中市で発生し、未解決事件として幕を閉じた「三億円事件」が切っ掛けで、多額の現金輸送の危険性が広く知られるようになり、銀行振込が広まったという話もある。現に、この奪い取られた三億円は東京芝浦電気の府中工場従業員に支払われるボーナスだった。
そんな経緯があり「給料の支払いは銀行振込」が進み、自分も給料は銀行に振り込まれるものという感覚で今まで生きてきている。しかし、「給料」と書かれた封筒は、たとえ中身が入っていなくても昂奮する物だ。